夜思比売の栞 本の感想(ミステリ)

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January February March April May June July August September October November December
2009(Wed) 23:29

ツグミはツグミの森 竹本健治

本の感想(ミステリ)

ツグミはツグミの森ツグミはツグミの森
(2009/10)
竹本 健治

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事故に遭って久々の学校復帰の後、クラスのイジメの対象が自分に移ったような気がして落ち着かない潤。そんな潤をかばってくれる親友の友雪と、変人の部長、水泳部と兼部の咲良、脚フェチの写真部の庸司、後輩の人形のような双子とが、天文部のメンバー。
夏休みを迎え、天文部の部室での天体観測の合宿に入ることになるが、大型台風が訪れ、ろくに観測もできない。
そして潤は、友雪が水泳部の先輩に失恋したのを密かに心配していた。



ミステリなんだけど、ミステリらしくないのです。
途中まではヤングアダルトにありそうな、明るい不安というか、ぽっかりと広がる空間への不安というか。どこか不穏な空気を孕んでいるのに、それを見て見ぬふりをしているような。
そんなぎこちない青春もののような、ちょっとした文学作品のような読みごたえでした。

ミステリのお約束とも言える、最近の事件と過去の事件の因果関係や、一対一対応でない犯罪への考察の導入、ツグミの森という名前の由来もそうですが、何か謎を解く鍵になるのではないかというようなものが、無造作におかれてます。
そして、雑学の豊富な部長、変な言動の双子。キャラの作り方も、嫌味なくらいにミステリ風。

それでいて、読みながらちっともミステリっぽくならないのですよね・笑
幼女殺しの事件は解らないまま。その他のことも、天文部員達が推理を披露しあうようなミステリ的シチュエーションにはならず。
なにかおかしいという違和感と、潤の趣味だという意味深な短歌、そして潤の記憶のイメージともいうべき描写が続く、独特の雰囲気のある小説でした。

↓以下、本文の内容に触れています。未読の方はご注意↓

仕掛けは珍しいものではなかったので、すぐに気づく人が多いのではないでしょうか。冥王星なんて、あからさまだし。
だから、気づいてから、なぜ?と考えさせたいものなのかもしれません。
てっきり潤の事件が関わってくるのかと思ったら、関わってこないし。それは幼女の事件も関わってこないことにも言えるのですが。
要は、こういう事件があったら、ミステリの小説上では関係があるに決まっている、という思い込みを皮肉る結末でもあったように思います。

それでも、終盤でほんの一瞬だけ、探偵役が場を完全に支配します。だらだらと潤の思考が続いてきた本編において、まばゆい閃光が差し込むような瞬間。
論理もフェアも何もないですが、動機にはすごく納得〜な展開でした。

一瞬犯人が見る凶暴な夢。
その後にくる完全な空虚が恐ろしい……。

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January February March April May June July August September October November December
2009(Sun) 23:00

探偵小説のためのインヴェンション 「金剋木」  古野まほろ

本の感想(ミステリ)

探偵小説のためのインヴェンション 「金剋木」 (講談社ノベルス)探偵小説のためのインヴェンション 「金剋木」 (講談社ノベルス)
(2009/09/08)
古野 まほろ

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事故に遭ったあかね達が迷い込んだ樹海の中の廃校には、一風変わった車椅子の老婆とその孫らしき五人の少年少女達が住んでいた。彼等の病と事情のせいで、しばしの滞在を余儀なくされるあかね達。
そこに起こった密室殺人。そして態度を変える老婆達。
果たして、無事犯人を指摘して、あかねとコモは家に帰れるのか−…。
特殊なクローズドサークルの中で遊ぶ論理の、本格ミステリ。



え〜、今回はあかねの自虐妄想も官能妄想もありません・笑
それゆえの短さではないかと思います。
それに加えて、難読漢字はカタカナになり、大変に読みやすくなってます。いささか物足りないくらい。
私は事件とか犯罪とかと直接関わりのないような、喜劇と紙一重の悲劇、そんな遊びのような大袈裟な感情表現の……まあつまり妄想シーンが好きだったので、どうも古野まほろを読んだという気がしなかったです。
本格ミステリとしては、とても洗練されてたように思います。時に戯曲みたいな会話文だけで進行したり、条件が別記されていたりと、システム的だったりするのですが、それも分かりやすさ、ひいてはフェアさに繋がるのではないかと思います。
なんていうか、小説の面白さを捨ててまでも本格に殉じた、という感じすらしました。
そうそう、今回は吸血鬼という人外が出てくるので、吸血鬼ルールというべきルールを使いながらの、フーダニット。
動機なんか、人の心になんか興味がないと言っちゃう探偵役が、ストイックです。

↓以下内容に触れています。未読の方はご注意ください↓

実際出られない訳ではない。けれど、心理的に出られない……というクローズドサークルでしたが、この「心理的に」という制約が今回のあらゆるところに出てきたような気がします。
とても抵抗があるけどできなくはない、とか。
したいけど制約的に無理、とか。

そういうのを組み合わせて、誰がそれを為し得たか、を考えるのは今回はそれほど難しくなかったですね。人間と吸血鬼の共犯、を持ってくるのは当然、そういう形になるだろうな、という。
ジャック・オー・ランタンは超意外でしたけど。まさかのカボチャ……

提示される謎を真剣に解いてみよう、というときに最適なのは、やはり本格なのですねぇ。

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January February March April May June July August September October November December
2009(Fri) 23:18

赤い竪琴 津原泰水

本の感想(ミステリ)

赤い竪琴 (創元推理文庫)赤い竪琴 (創元推理文庫)
(2009/09/30)
津原 泰水

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暁子は祖母の遺品から出てきた天折の詩人の日記を返すため、その詩人の孫・耿介に会いに出かける。
ぶっきらぼうなような丁寧なような、古楽器職人の耿介と話をしているうちに、惹かれていく予感を感じる暁子。
日記のお礼にと赤い竪琴を貰い、幾つかの偶然から二人の距離は縮まっていくのだが、時々耿介の様子がおかしくなって−…



まるで起承転結を忠実に守ったかのような、四部構成。
抑制の効いた、静かな大人の恋愛小説です。
しかし、なんで創元推理文庫なのか分かりません・笑

互いの祖父、祖母の恋愛という記憶・歴史から繋がる運命的と言えば運命的な恋愛なのですが、ひたすら静かで内面の見えない恋愛小説になってました。
好きだとも愛してるとも言わず。
そもそも、どういうところが好きになったとも明らかにならず。
恋とは落ちるものだといいますが、その不意打ちを喰らった感じと、落ちてしまったことへの諦め。
あと、生きていくのに必要ではないはずの恋を、本当は生きていくのにすごく必要なものなのではないかと思わせる何か。
そういう「恋」の存在感の強さを、ひしひしと感じました。
人生にちょっと投げやりになってしまったり、仕事がスムーズにいかなかったり、そういうモチベーションの低下を恋が改善していく力を持っているか否かは時と場合によるでしょうが、暁子の恋に具体性があまり見えないために、恋の肯定的な部分がまっすぐに伝わってくるのでした。

赤い竪琴やら鯨の歌、オルフェウス神話、などなど魅力的なアイテムやら脇の人物やらも結構あるのですが、あまり触れられなかったのは残念でした。
でも、安易に悲劇的な終わりに持って行かなかったのは良かったです。



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January February March April May June July August September October November December
2009(Thu) 23:00

BG、あるいは死せるカイニス 石持浅海

本の感想(ミステリ)

BG、あるいは死せるカイニス (創元推理文庫)BG、あるいは死せるカイニス (創元推理文庫)
(2009/10/10)
石持 浅海

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天文部の観測会に参加していたはずの姉が殺された。成績優秀で、体も大きく健康。男性化するなら彼女だろう、と周囲に期待されていた姉が何故殺されなければならなかったのか?
姉の後輩であり、同じく男性化候補であった小百合までもが殺害され、遥は犯人を見つけだそうと奔走しはじめる−…。
人が生まれてくる時、必ず女として生まれ、生物的にすぐれている個体が男性化する世界で展開する、学園ミステリ。



文庫になったので再読しました。えらい可愛らしい表紙になってます。
石持浅海の作品の中で一番の問題作……にして、一番の傑作と言ってもいいのではないでしょうか。この作品のファンは多いみたいです。

ミステリ的には案外シンプルなのですが、このファンタジックというかSFチックというか、この世界観から生まれる現実との齟齬が面白い。
優れている個体が男性化し、男になれば楽して生活できるし、誇らしいし〜なんですが、男になれば子作りに励まなくてはならず・笑
あと、男性化するにも経産婦でなくてはならないとか色々な設定があり、純粋にそのルールが楽しいです。
男が女をレイプする?そんなのありえない!……みたいな。なので、この小説の男性女性を、読者の現実の男性女性に当て嵌めてはいけないんでしょうね。
それこそ、水槽の中の魚でも見るようなつもりで読めばいいのではないかと。
その男性化した中でも特に優れているのがBGと呼ばれる別格の存在。BGを巡って、更に謎は深まります。

残りは青春ミステリの王道的な、ちょっと悲しかったりほろ苦かったりする成長ものになっています。
まさかの展開に、初めて読んだ時は驚きましたが、始めからそういうふうに読むと……遥にその片鱗はあるのかな?

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January February March April May June July August September October November December
2009(Tue) 22:56

Another 綾辻行人

本の感想(ミステリ)

AnotherAnother
(2009/10/30)
綾辻 行人

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夜見北の三年三組には噂があった。
二十六年前、クラスの人気者のミサキの死を受け入れられず、ミサキを存在するものとして扱い続けた結果、クラス写真にミサキが映ってしまったという噂。そのせいか、三年三組に関わる人の死が異様に多いのだという。
語り継がれていく三年三組の呪いは本当に実在するのか。
東京から転校してきた榊原は転校早々入院するはめになり、五月から夜見北の三年三組に通うことになる。そこで、前に見かけた眼帯の少女・鳴と同じクラスであることを知り、話しかけようとするが、他のクラスメイトには彼女は無視されているようで……。
そして、三年三組の呪いは、今年も「呪いがある年」へと向かい始めるのだった。



ちょっと変わった、そして一線を越えた学校の怪談風のホラーな前半から、一気に謎が噴出する中盤、伏線を効かせながら盛り上がる終盤戦と、とても面白かったです。長いとか厚いとかいうのも、小説の魅力だなぁと改めて思ったり。
単なるホラーだと私の好みではないのですが、そこにミステリ色があって、自然に自分でもあーでもないこーでもないと考え始めるのが楽しい。たいして難しい謎でもないので、なんとなく分かる部分もあったりして。
自分で気づく、というのも、小説に参加しているようでぞっとした。なかなか楽しかったです。

出来事に踏み込んでいく恐さではなく、一歩引いた恐さ。
何かおかしい。けど、何がおかしい?
違和感とかノイズ、タイミング、といった、綾辻らしい奇妙な恐さだったのではないかと思いました。
球体関節人形……にちょっと笑いました。恋月姫の展覧会かなんかで作者が目撃されたそうですし。

↓以下、本文に触れています。ネタバレの恐れがありますので、ご注意ください↓

 
内容にあまり関係がないのですが、主人公が榊原という名前をとある少年犯罪の犯人と同じということから、軽い嫌がらせを受けていた、ということに時代を感じました。そういうこともあるだろうな、と。

榊原が鳴に見せる執着が何なのか、単なる初恋なのか、何かを感じ取っていたのか、などなど、人間関係的な何かはほとんどないといってもいいと思います。
血縁関係もどこか希薄で。
何にも頼れない不安と、呆気なく死んでしまう人達が呪いのリアリティを増して、怖い怖い。
呪いといっても、恨みつらみがあるわけじゃない。なんで起こるのかもわからない。そして、この話でも呪いを無くすことには成功していません。乗り切っただけ、という……。ホラーだわ・笑

やはり、呪いの詳細が明らかになっていって、関係なさそうな死も呪いによる死だったということが分かり、紛れ込んだ死者は誰なのか、という謎が出てくる辺りが一番の読みどころでしたね。
怪しいといえば、皆怪しくて。
とある人物についての二通りの捕らえ方には気づいていましたが、他に誰であってもおかしくはないかな、とも思ったし。
とにかく読みやすく、面白かったです。
また幕間の生徒達の会話が良い味出してました。


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