This Category : 【小説以外】2012.05.12 *Sat*
ソクラテスの弁明 クリトン プラトン
不敬神の罪を法廷で問われることになったソクラテスが、保身のための虚言の美辞麗句で弁論することをよしとせず、なにゆえ自分がこのような場所に立ち断罪されようとしているかについて弁明する。 弁明。弁論? ほとんど一方的に語るだけの短い文章の中に、ソクラテスがどんなふうに若者たちと議論し克己させてきたのか、また当代の知識人や権力さをムカつかせてきたかということがよく分かる。 単なる遊びとして、知的ゲームとして楽しむだけならばともかく、施政者や知識を売りにして生計を立てている者からすると、とても苛々するだろうなと思う。そんなこと言ってたら世の中回らないだろうという点と、ならばお前自身がやってくれよという点が、どうしても頭の中をちらちらする。 無知であることを知っているという点で、他の者よりも多く知っているというのがソクラテスの立場。そして実際、知者であるという者と話をしに行ってみたが、なるほど知恵者だと思う者は一人としていなかった、だから自分が一番の知恵者だというのも間違っていないのだろうと思うようになった……というように、ソクラテスの半生を軽く振り返ってくれるのでなんとも分かりやすい。 一体どういうことをしてきて、何が人の恨みをかったのかも、ふむふむといった感じである。 徳にしても善にしても美にしても、「ある」ことは疑わない。けれど、それが「どのようなもの」なのかは知らない。 「死」にしたって、どんなものなのかも知らないのだから恐る必要はなく、恐れるのは賢者ぶっているかららしい。 「どのようなもの」かは分からないけど「ある」のは分かるから、その周辺の関連するものから推測したり定義づけたりしていって、「どのようなもの」か捉えようとしていくしかないのでは? と思うのだが、そういうやり方がソクラテス自身によって否定されているようにも感じられた。(肝心のものを見ないで、周囲のものばかり見てる〜みたいな) 数学や物理の問題みたいに、すごく特殊な状況を設定して問題を解かせるような、そんなシンプルさを感じる。そういう式のような単純な形として捉えるからこそ、様々な時代や社会の問題に合った、普遍的な論理になれるのかもしれない。 分からないところがたくさんあったけど、書くのが面倒になってきた。 クリトンは親しみがもてる、常識人だった。 やられたら仕返しをやり返すのが正義しいと思うかどうか、という点が印象に残った。 2012.05.08 *Tue*
異性 角田光代 穂村弘
小説家角田光代と歌人穂村弘とによる、まるで書簡のやりとりを見るかのような恋愛・異性についてのエッセイ。 取り上げられるテーマは誰でも一度は思ったり口に出したり、あるいは喧嘩の種になったことのあるような事柄ばかりで、そういうのを読んだら(自分と異なる意見を読まされたら)腹が立つんじゃないかと心配していたけれど、そんなことは全然ありませんでした。 多分両氏とも、これが男性女性全般のことではないとか、あくまで個人の観察した範囲内だとか、そういう点にとても意識的だからだと思う。礼儀正しいというか。 これが実際の男女では、なかなか取れない立場たったりするもので、どうして女は/男は! という感情論になってしまいがちのような。 なので、そういうイラっとさせられる心配なく、なおかつ気になる異性のあの行動が分かるかも?という意味で、楽しめた。 一つ一つテーマは上げないが、賛同できたりできなかったり、笑えなかったり笑えなかったり、時には異性側の意見の方に共感できたり。 勉強になった! というよりも、やっぱりね……の方が私は多いかもしれない(笑) 社会的環境要因なのか生物学的にそういう造りなのか分からないが、考え方や在り方の性差というものが既に存在してしまっていることは否定できず、既にあるものの話なのだから時間が経てば古い内容の本になるかといえば、そうならないような気もする。 小物やアイテムが変わっても学校の教室の雰囲気が変わらないように、この男女間の溝は埋まらないでずっと行きそうに思えてしまった。 隙をスペースと言うところと、「錯覚と致命傷」が一番痛かったかな(笑) 角田光代の挑発にも擦り寄りにもあまり乗ってこないけど、語りたくなったら急にガーッと穂村弘が語り出したりして、両氏の攻防? 探り合い? も楽しい。 2012.05.05 *Sat*
20歳の自分に受けさせたい文章講義 古賀史健
文章とは頭で考え、実際には手で書くのだとしても、頭を使って書くものだという思い込みがある。 その思い込みを取っ払ってくれるのには最適な本だった。 例えば、文章のリズムについてなどはどんな文章の書き方の本にも書いてあるが、じゃあそのリズムとは具体的になんだという「あえて言わなくても分かるだろう」という部分にまで踏み込む。 他にも、眼で構成を考えるとか、書くときの自分は一体どこに座るべきなのか、編集はどうするのか、などなど、どの項目も五感になぞらえるような説明になっている。 確かに文章のことを文章で説明されても分からないときがあるので、分かりやすいといえば分かりやすい。 七色だと思ってた虹を四色だと言われたような、そんな取っつきやすさ。 あとは、書くことがないわけでも、文才がないわけでもない、という考え方が熱くていいなと思った。もともと溢れんばかりにある情報や感情を、翻訳し、加工し、取り出して、編集する。それが書くことなんだと思うと、できないことはないかなと思えてくるから不思議だ。 そういう意味でも、やり方を書いたハウツー本というより、意識の改革のための本、講義と銘打つのに相応しいテンションだった。 ちなみに読んだだけでは文章はうまくならない。……それはこの記事を読めば分かるだろう。 2012.04.30 *Mon*
パスタでたどるイタリア史 池上俊一
パスタの歴史とイタリアの歴史、所々前後するものの、それらをうまく合わせた本。パスタのこともちょっと詳しくなれるけど、イタリアの歴史や経済、民俗、宗教を、イタリア料理あるいはパスタという点でクローズアップしていくのがおもしろい。 おもしろいと書いといてなんだが、歴史は苦手なので結構適当に読んでしまった。 歴史が苦手でも、パスタに興味がなくても、気になることがぽんぽんと出てくるので、もっと広く、気になることを見つけるような読み方で感想文なら書けそうな気がする。 私が気になるのは、じゃがいもやらナスやらが悪魔の食べ物としてなかなか受け入れられなかったところとか(イタリアに限らないが) 他の国に比べたら魔女裁判の被害が少なめであったとか(田舎だから? というせいもあるんだろうか) パスタがマンマの味なのは、母の乳のように繋がりを感じさせる食べ物なのは、なぜか。 パスタ作りが女性の仕事だったこと、などなど。 そっちの方がどちらかというと気になった。 とにかく読むとパスタが食べたくなるし、イタリア料理のレストランに言って聞いたことのないパスタの名前を見ても、それほど敬遠しなくなる、かもしれない。 2012.04.27 *Fri*
紳士協定 私のイギリス物語 佐藤優
外交官になりたいがため、というよりは、神学の学問を続け博士論文を書き上げたいという理由で外交官の道を選んだ筆者が、ロシア語習得のため、イギリス軍の学校で研修プログラムをこなしていた時代の自伝的な内容。 ホームステイ先にいた十二歳の聡明な少年グレンと親しくなり、互いに交わした言葉や遊びに出かけたこと、いろんなものを食べたこと、が淡々と書かれている。 この淡々、が、曲者だなと思う。 ロシア語習得のための前の、英語習得のための過酷な勉強の日々、外交官としてやっていくにはもしかして何か不適格な部分があるのではないかという予兆、グレンとの会話で見えてくる移動しにくい階層という段差の存在、それぞれの国の文化の違い。 どれも興味深いし、面白いし、少年との青年外交官(研修生)との交流も微笑ましい。 だが、素直にそう感情移入していいのだろうか、そもそもそこに心の動きらしきものがあったとして、それを自分は理解できているのだろうか、と感じられてくる。 筆者にとってステーキ・アンド・キドニー・パイは美味しくないし、グレンはどうしても鰻を食べられないのだ。 中流階級だけれど優秀だから大学に行くといい、と勧める筆者。勉強に興味がありつつも、グラマースクールには友達がいないと孤独に耐えているグレン。装弾に乗ってあげる頼れるお兄さんは、やがてロシアに赴任し、手紙も滞るようになる。 グレンはどうなったのだろうかという一つの結末が、ひたすら心に残る。 筆者とグレンの交わした約束が表の紳士協定なのだとしたら、筆者と外交官仲間の武藤との菅系が裏の紳士協定なのではないか、と思わせる展開だった。 政治思想的なことはよく分からない。 とある外交官の自伝としても読めるが、イギリスの食べ物や電車、バス事情、階層と使う英語についても読んで楽しい。 おすすめ本
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